あー。明るいと思ったら満月じゃん。
鈴虫鳴いてるし。もう秋かぁ。
それにしては蒸し暑過ぎる。チャリ飛ばしても風来ないし。
毎年こんなんだったっけ?
異常気象とか温暖化とか、それ関連のせいか?。
まあ、こんな田舎には関係ないし。
つか、なんか原っぱに小さいガキが居るんだけど。
学校の体育館出たのが八時だったからもう九時前くらいか。
集落もっと先だし。こんなガキ見た事ねぇし。
必死に石投げてるけど大丈夫か?
「おい!何やってる!?」
「月ぶっ壊してんだよ!」
おー。そうゆーことね。俺も昔こんな馬鹿げたことやったわ。
「届かねーだろ!つか、どこの子だ!?もう遅いから帰れ!」
あ、走り出した。同じ方向じゃん。念のためついて行くか。
……くそ遅ぇ~。
ん?売店の角曲がったな。やっぱこの辺のガキか。
越して来たのかもな。
さて、俺も帰ろ。
――って、今日も石投げてるし。
「おい!お前、また……」
「あれ、見ろよ!」
ん?月?
「昨日あたったんだ!減ってるだろ!?」
あー。えーっと。
かごの中のバスケットボールが月だとして、だ。
太陽の当たり具合で満ち欠けすんだっけ?
そりゃ満月の後だからなぁ。この先は欠けてくよなぁ。
「はい!すげぇー、すげぇー!」
「だろ!?」
「すげぇけど、もう帰れ!」
あー、名残り惜しそうに駈けてくわー。
やな予感するわー。
――居るし。投げてるし。んで、月欠けてるし。
「おい!帰れ!」
「見ろよ!!」
「ああ!凄いから帰れ!」
――これはもう、マジで凄いわ。
ほっそーい三日月になっちゃってる。毎日毎日よく飽きねぇな。
「おい!」
「もうちょいなんだよ!!」
「いいから!乗れって!」
まだ投げんのかよ。はぁ。
調べたけど。
明日辺り消えたように見えて、そっからまた徐々に満ちてく。
教えてやってもいいけどよ。落ち込まねぇか?
ったく。
「おい!行くぞ!!」
やっと来た。
「掴まれよ?落ちるなよ?」
「毎日おんなじことばっか言うなよ!」
毎日石投げてるお前に言われたくねーわ。
「お前さ、何で月壊すの?」
「母ちゃんが月につれてかれただろ!?だから助けるために決まってんだろ!!」
いや、お前ん家の事情知らねぇし。
でもそうか。んー。こいつの母ちゃん、もしかして……。
うん。で、この辺の身内に引き取られたのかもな。
「ほらよ」
「よいしょっと」
「気をつけろよ」
「お前もな!」
生意気な奴……。
――あれ?え?
あー。入院してたかなんかだったのかぁ。
そうかそうか。
「あ!あの人だよ、お母ちゃん!!」
綺麗な女の人がお辞儀をしてる。……あ、俺にか!
「どうも」
まあ良かったじゃん。
「お前、やったな!!」
「おう!!」
「じゃあな!!」
「またな!気が向いたら来てやるよ!!」
はっ。
最後まで生意気な奴。
んー。
風が涼しくなった気がするなぁ。
――うーん。参った。俺にも責任あんじゃないの?
自首するべき?いや、早まるな。待て。
一応調べてみるけど。“月壊し”は犯罪か、って。
もしそうなら、俺は共犯ってことになるのか?
はぁ。
今日一日みんな大騒ぎの中ずーっと、どうしようって考えてたから。
くそ。痛ぇな。パス受け損ねて突き指したじゃねーかよ。
あのガキめ。
ん?蛍か?原っぱがやけにキラキラ光ってる。
ああ。あのガキの勲章の残骸かぁ。
うーん。
まあ、月が消えたってこんな田舎には関係ないしな。
どうにかなるだろ。
でも団子屋には謝んないとなぁ。ハンバーガー屋にもか。
お月見なくなるからなぁ。
あーあ。面倒くせぇ。